10年前の未来

横浜みなとみらいの一番奥に、臨港パークという公園がある。
海の向こうにベイブリッジが見えて、港を行き交う船を見ながらのんびりできる公園で、それでいていつも静か。独身時代には好きでよく行った公園だ。

昔の話だけど、好きな人ができて、やっぱりこの公園に一緒によく行った。
夜、親父のマーク2を借りて、マックの裏の駐車場にクルマを止めて、ふたりで歩く。
白い壁の国際会議場の横を抜けると夜の海が広がっていて、オレンジ色のあかりが海に反射して光っている。

その日は日曜日、いつものように彼女を夜の臨港パークに誘ったけれど、いつもとは違うサプライズが2つ。

ひとつは夜景を見るヘリコプターの予約をこっそり済ませていたこと。
臨港パークの奥にヘリポートがあって、そこから桜木町の夜景を見るヘリクルージング、というのが当時あって、絶対コレに乗って…と決めていた。

驚く彼女を連れて、ヘリコプターは離陸。
眼下に広がる横浜の夜景、遊園地の観覧車のライトアップや、ランドマークタワーのあかりがとてもきれいだ。
ヘリコプターって大きな音がするけど、機内は意外とそうでもなく、高速を走るクルマの赤い明かりやオレンジの外灯を見つめて、ふたりでなにか話していたような気がする。

そこで、もうひとつのサプライズ。

それは小さなダイヤの指輪。
会社帰りにこっそり買っておいたもので、おそるおそる彼女に渡す。
予想で買ったサイズだったけれど、ちょうどピッタリで、当時22歳だった自分は、ふたつ年上の彼女になにか気の利くことを言ったのか、それとも言わなかったのか。

当時の自分は新卒で、4月からサラリーマンになったばかり。
でもなんとなく仕事の内容が見えてきて、なんとかこうやって社会人として生きて行けそうだなー、と思い、それなら最初にすることは…ということで、社会人1年目にして当時4年つきあっていた彼女に結婚を申し込むことを決めた。

…結婚しよう。

返事はその場でOK。
もちろんそのときの彼女は、今の妻。ハルトと夏樹のかーちゃんだ。

1997年12月14日は、そんなちょっと甘い記念日。

このプロポーズ話、今時ドラマだってそんな恥ずかしいことしないよー、なんて笑いのネタだけど、でもそう言いつつも20代前半の若かりし我ら夫婦の大事な思い出だったりもする。

駐車場に停めたクルマのなかでたくさん話をして、最後にはふたりとも泣いていたような気がするけれど、あれはなんの涙だったんだろう。10年経って妻に聞いてみたい気もするし、このままそっとしておきたい気もする。


その後妻の両親にあいさつに行って、無事に結婚。
白い小さなアパートを借り、北海道に来て、家を建てて子どもが生まれシュフになり…といろいろあったけれど、やっぱりこの人と結婚して良かったなー、と今でも思う。
自分がそう思う、ってことは、10年前の約束はちゃんと果たせているのかもしれないな。

10年前のあの日の未来予想図はきっと外れているけど、でもこの今の暮らしを彼らが知ることが出来たら、きっと喜ぶに違いない。

いちばん良かったことは、いつもふたりで同じ方向を向いて歩いて来れたことだし、きっと今後もそうやって生きていける気がする。


あの日から今日でちょうど10年。

子どもは怪獣だし、その妻は首をケガしているし、しかも外は大雪。

なんだかバタバタとしている日々で、夫婦もちょっとしたことで小さなすれ違いが出来たりすることもあるけれど、でもそうは言ってもやっぱりこんな日々は素敵だし、こうして毎日力を合わせて過ごせることは、とても嬉しいことだし、当時の我らが願っていたとおりの10年後の未来だ。

2児の母となった妻に、どうもありがとう。
いつも、ありがとう。