とーちゃん

子どもが生まれるずっと前から夫婦で話していたことがある。

それは、子どもに「パパ」「ママ」と呼ばせたくない、ということだ。

日本人なんだから正しい日本語を使うべき…とか、そんなカッコイイ理由ではなく、単にパパママという柄ではないから。

いくらなんでも自分たち夫婦にはパパあるいはママという呼称は似合わない。

いくら自分が親だからって、パパなんて呼ばれた日には寒気がするに違いない。

そんなわけでハルトには「とーちゃん」「かーちゃん」と呼ばせるべく接している。

「かーちゃんバイバイ、だよ」とか「とーちゃんに『おはよう』を言おうよ」など。

ところがハルトはなかなかこの呼び方を覚えない。

ひとつには、夫婦がお互いを呼ぶ場合は名前で呼んでいる、ということに原因がある。

でも自分(夫)にとって妻は「かーちゃん」ではないから「かーちゃん」とは呼びにくい。



他の単語に比べるとやや発音が複雑?なのも言いにくい原因なのかもしれない。

そんなわけで「ぶーぶー」「マンマ」「無い無い」などは比較的よく使うようになったのに、「とーちゃん」「かーちゃん」
とはなかなか口にしなかったハルト。



しかしこのところようやくそれらしいことを言うようになった。

ハルトの発音は「とーちゃん」ではなく「たぁーたん」という感じだけど、たしかにメロディ?は「とーちゃん」だ。

用事があるとき、呼び止めたいときに「たぁーたん」と呼ぶので、ちゃんと意味はわかっているようだ。

「たぁーたん」

「なあに?」

…ハルトに呼ばれるようになってちょっと嬉しい父であった。