森のいのち

それは今から数年前のこと。
まちの図書館で、たまたま写真展を見た。

阿寒の森の中、足下の小さな植物を撮った写真の数々。

暗くて湿っぽい、黒っぽい写真が多かったのだけれど、そこには確かに「小さな森のいのち」が表現されていて、自分はその写真たちがとても好きになった。

撮影したのは地元に住む写真家の小寺卓矢という方。
当時は初めて聞く名前だったけれど、その後、ファウラという北海道の自然を題材にした雑誌に、阿寒の森をテーマに写真を連載していたり、イーストサイドという道東をテーマにした雑誌に写真が載っていたりして、そのどれもが写真展で見たような「いのち」の息吹を扱ったものばかりで、個人的にとても気になる写真家だった。

当時ウェブサイト上で日記があり、ちょうど小寺さんに子どもが生まれ、その喜びや感動が綴ってあって、あぁ新しい命、自分の子どもが生まれるのってこういうことなんだなーと、なんだかとても感動してしまったりしたこともあった。

そんなわけで、しばらく「ひとり隠れファン」を続けていたのだけど、今年になって、たまたま一緒に仕事をすることになった人が、実はこの小寺さんの奥さんだということに気づいた。
なんと世間は狭い…。で、このブログが見つかってしまったり、なんだかんだと急接近。

インタービュー記事の印象からちょっと怖い印象だったのだけど、実際に会ってみると、全然そんなことはなくて、とても気さくで魅力あふれる小寺さん。
自分の伝えたいことを追求して、それで生きていこうと決心し、進んで行っている姿はとてもカッコイイし、そんな本人の魅力や、伝えたい力が小寺さんの撮る写真からも伝わるのかも。


そんな小寺さんが、初めての著作として写真絵本を出す、という話。
本屋さんで見かけていたけれど、ぜひ本人からサイン入りを購入したい!ということで「おあずけ」状態だったのが、やっと先日我が家に家族みんなで遊びに来てもらい、本を手にした。

…それが「森のいのち」という写真絵本。


本当のことを書くと、自分は小寺さんの写真が好きなので「絵本」と聞いて最初は「えっ??」というのが正直な感想。

ところが、じっくり読んでみると、これがすごく良い。

ここに書かれているのは、ちいさな森のいのちのリレー。

誰も知らない森のなかでひっそりと行われているリレーは、小さいけれど、でもたしかにそこにあって、何千年も何万年も続いている。
ひとつひとつのいのちには「終わりの約束」があるけれど、でもそんないのちがまた別のいのちを育み、そして形を変えて引き継いでいく。

考えてみれば、別に森ではなくたって、私たち自身がそういう存在であり、いのちの大きなリングというか、地球のひとつひとつのいのちが、でっかくまわっている一部。
…そんなことを感じるお話。

身近な題材を通して、そんな命の大切さや価値がじっくりと身にしみていくような、そんな本でした。

小寺さんはいろいろなところで、人のいのちの尊さ、人と人が命を奪い合う戦争の無意味さなどを書いているのだけれど、一見森とは無関係なそんなこともこの本に込められたメッセージなんじゃないかと思ったりもする。

写真の本だと思っていたのに、とても素敵だ。とても好き。
絵本っていうけれど、大人向けの本。

ファンだからというわけでなく、とてもおすすめ。
そんなわけで、ぜひお近くの書店に並んでいるのを見かけたら、ぜひ手にとってみてください。

詳しくはウェブサイト
小寺卓矢森の写真館
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我が家でサインをもらっているところ。
「大切に生きる」と書いてくれました。
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