木の時計

我が家のリビングの壁に、木でできた時計がかかっている。

この時計、北海道に移住してすぐ、まだ家を建てる構想すらない頃に、たまたま通りがかった旭川のイベント会場で見つけたもの。
誰か旭川近辺の木工クラフト作家が作ったもので、ひと目で気に入って迷わず買ったものだけれど、いまとなっては誰が作ったものかもわからない。

この木の時計、小さくてあまり存在感もないけれど、実はとてもとても気に入っている。

秒針はなくて、短針と長針は木の枝で出来ている。
本体は木の板で、数字の部分には穴があいている。

秒針が無いので音が静かなのもいいし、動いているんだかいないんだか、というような存在感の無さがとてもいい。飾りっ気がなくシンプルなのに、でも暖かみがある。

これを手にして帰ったとき、見れば見るほどに気に入ってしまい
「ああ、こんな時計が似合う家が欲しい」
そんなふうに思った。
うまく表現できないけれど、この時計が持っている空気感というか雰囲気というか、そういうものがとてもいい。妻に聞くと、彼女も同じことを考えていたという。

当初はログハウスがいいかも?というところから話が始まり、家についての勉強を深めていくうちにログハウスは選択肢から落ちて、新住協の提唱する木造工法の考え方を元にした家を小さな工務店に依頼することになったけれど、でも「この時計が似合う『木の家』」という最も基本的な設計思想は建築家にはきちんと伝わり、それをそのまま生かした家が建った。

木の壁、木の柱、丸見えの柱や梁など、木のやさしさと重厚感を併せ持ったこの家は、実はベースとなるデザインコンセプトにこんな小さな時計があった。

あまりにも家の内装に時計が溶けこんでいるからか、「家にあわせて時計を作ったんですか?」と聞かれることがあるけれど、いえいえ時計にあわせて家を造ったんです。

だから、リビングでいちばん良いところにこの時計専用の場所がある。
この時計を照らす照明だってあるし「夜の暗がりを楽しむ暗い部屋」になったときにも、時計のところだけは薄ぼんやりと明かりが残る仕組みになっていたりもする。

時計にしても家にしても、高級品でもブランド品でも高価なものでもないけれど、こんなお気に入りのもの、本当に自分たちがいいと思ったものに囲まれて生きていけるのは幸せなことだ。

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そんな私たちのお気に入りの木の時計は、今日もリビングで静かに時を告げている。