秘密の場所

自宅からそれほど遠くない、とあるところにニリンソウの群落がある。

この季節、林いっぱいにニリンソウが咲き乱れ、そのなかにポツンポツンと白いエンレイソウが咲いている。

まだ肌寒い早朝に行けば、丸まった花びら。
昼に行けば、一斉に花を開いた光景。
夕方に行けば、オレンジ色の夕日に照らされた花たち。
風が吹くと、フワフワと白い花が風にゆれている。

…それはそれはきれい。本当にきれい。

自分はこの季節に、毎年こうして一面のニリンソウを見に来るのをとても楽しみにしていて、5月になるといつ咲くかいつ咲くかと、なんとなくソワソワしてしまう。

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EOS10D EF100mmF2.8Macro

この場所の本当の魅力は、なんといっても無名なこと。静かなこと。
名のある観光地になっても遜色ないほどの美しさだし、札幌あたりからでも見に来る価値がある風景だと個人的には思うけど、しかし今のところは無名で、いつ行ってもたいてい誰もいない。
地図にも載っていないし、ガイドブックのたぐいにも載ったことはないし、駐車場も看板もなにもないので、地元人にもほとんど知られていないような気がする。

ごくたまにこの場所を知る一部の人が写真を撮りに来るけれど、ほとんどの場合誰もいなくて、この風景は私たちだけのひとりじめ。
路肩に車を停めて、妻と一緒に静かな林を抜けて、リスが遊ぶこの場所に立つと、つい黙ってしまう。
…そんな大人の秘密の場所。

誰も見ていないのに、誰が植えたわけでもないのに、毎年毎年こんなにもたくさんの花を咲かせている。
冬には氷点下25度にもなって跡形もなくなってしまうのに、たしかに雪の下で命をつなぎ、毎年間違いなく咲き乱れる白い小さな花。
それはまるで寒い冬が終わった喜びに満ちあふれているかのよう。

そしてキツツキやリスの姿を追い、そして木を見て、あぁ今年はこの木の花はまだだな、なんてことも考えるのも楽しみのひとつだ。


北海道の田舎暮らし。
家の近くにはお洒落なカフェもおいしいケーキ屋さんもない。
でも田舎ならではの、こんな素敵な風景との出会い、そんな楽しみが確かにある。

これからもこんな風景を大切にしていきたい。

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EOS10D EF100mmF2.8Macro

十勝にお住まいの方へお願い。
もしこの場所がどこかわかっても、宣伝するのはできれば止めて欲しいです。
もし行くことがあっても、見るだけ、写真を撮るだけにしてください。
この場所を大切にしている人がいます。
より美しい群落のために自主的に管理している人もいます。
ごみ一つ落ちておらず、山菜としてまったく採られてもおらず、そしてまったく踏み荒らされていないのは、偶然ではありません。

…ちなみに場所をお問い合わせいただいてもお答えできませんのであしからず。なんせ秘密の場所ですから(笑)