すれ違いざま

ここは田舎なので、家の周りを歩くと出会う人というのは、基本的に知っている人だ。
犬の散歩で会う人、ハルトの保育所の送り迎えで会う人、たいていいつもの顔だし、誰?と思ってもとりあえず「こんにちは~」と声をかけておけば大丈夫。

出会ったらこんにちは、というのはこの地区の基本で、二人連れの小学生に「こんにちは」と挨拶したら、後ろから「ねえ、今の誰だっけ?」「○○ちゃんちのとなりのいがさんと、犬のおくさんだよ」なんて声が聞こえることも。

もちろん挨拶するときはその人が誰か、ということを知っていた方が気持ちが良いので、その小学生じゃないけど、えーとアレは誰だったけ…なんてことを考えながら挨拶していることが多い。

そしてそれはクルマに乗っているときも同じ。

対向車が地域の人や知っている人の場合、すれ違いざまに頭さげてこんにちは、あるいは「よっ!」と手を挙げたり…なんてことをよくしている。

この地域に続く道はおおむね1本しかないので、そこを通ると地域の住人、あるいは地域で働く人、それは保育所の先生や郵便局の人だったりと、たいていよく知っている人だけど、そんな人たちの運転するクルマとすれ違う確率は高い。


…向こうからクルマがやってくる。

田舎のどこまでもまっすぐな道、たいていお互いスピードがでている。

まずは車種で判断。
えーと、あのクルマのあの色は誰だったっけな…?

それでわかる場合も多いけど、同じクルマに乗っている人もいるし、何台もクルマがある家も多いし、わからない場合もある。
真っ黄色や真っ赤など目立つ色だとわかりやすいけど、たいていは白やシルバー。

もう少し近くなれば、今度はキャリアの有無、ナンバー、ダッシュボードのアクセサリーなども参考に。

それでもわからなければ、もう運転手の顔で判断するしかない。

すれ違いざま、あっ、あの人だ!
…と思った瞬間にはもうすれ違った後で、しかも向こうはちゃんと頭を下げて微笑みかけていたりする。むむぅ、負けたぜ…。


というわけで、地域の人たちは日々こうして動体視力を鍛えている。
ついでに記憶力も鍛えているのかも。

4月になって、新しく地域に来た人、保育所の仲間になる人など知り合いが増える季節。まずは本人の顔と名前を覚えて、子どもの名前と家族構成を覚えて、そして普段乗っているクルマの車種と色を覚える。

そしてその記憶と動体視力をたよりに、今日もすれ違いのクルマをチェックする、そんな田舎暮らしだ。