少し前に、四つ葉屋根の家は誰が建てたの?というお問い合わせをいただいたので、今日は工務店の話。
この家を建てたのは、幕別町にある小さな工務店。
会社形態としては有限会社だけど、社長であるオヤジさんと社員が息子さんひとり、それに奥さんが経理をほんのちょっとやっている…という程度の規模だ。(いまは息子さんが退職して放浪の旅にでて、代わりに社員がひとり入ったみたい)
家の新築に至るまで、大きなハウスメーカーから、この工務店程度の小さいところまでいろいろな会社を見た。
大きなハウスメーカーは、「大きいことの安心感」や「ブランド」を売りにしていたような気がする。
私たちの場合ははじめからブランドになどに興味はなかったし、そういうことを言うようなメーカー、たとえば業界上位のあの会社や、某北欧の国の名前が社名に付いている会社などは、そもそも内容の割に値段が高く、営業マンの熱心さとは裏腹に、あまり関心なしだった。
値段の高さについては、この熱心な営業マンの人件費、常設のモデルルームの経費、立派なパンフの制作費などがすべて、家の値段に上乗せしてあるのだから、高価なのは当然かもしれない。
いろいろ見た中で、結論としては「最も小さな工務店」に決めることになった。
それは、たくさんの話をするなかで、社長の家づくりに対する姿勢、たとえば地元の素材への愛着や、いろいろな勉強会に積極的に出席していること、など、仕事に対する姿勢に好感を持ったこと、それに私たちの家へのコンセプトを誰よりも理解し、それを設計図に起こしてくれたことが決め手だった。
つまりこの工務店社長、私たちは建築家と呼びたいが、彼に個人的に惚れ込んだ、というのが一番近いのかもしれない。
ちなみに最初の接触以降、営業なんか一度もされたことはないし、向こうから「家を建てませんか!?」ではなく、むしろ私たちのほうが「建ててくれますか?」と聞いた感じでもある。
実際の設計中および新築中の工事中に感じたこと。
それは、小さい工務店ならではのフットワークの良さ。
たとえば、家に似合うキッチンが欲しい…という話をすれば、クルクルと走り回って、それを実現してくれる。
家の中のありとあらゆる要素が自由に作れ、人脈を駆使して小さな思いつきを形をしてくれる。
キッチン、リビング、テーブル、お風呂、仕事部屋までありとあらゆる所に工夫がいっぱいだ。
もちろん値段の安さも魅力。
すでにハウスメーカーで家を建てた人には、この家は3000万円くらいするの?と聞かれたけれど、実際は1700万円弱くらい。
隅から隅まで地元の木と自然素材をふんだんに使い、それでいて最近の家にあるような要素、たとえば全室LANやIHヒーター、集中照明コントロール、ホームシアターなどのハイテク系?設備も充実し、北海道での最高レベル、つまり日本で最も高い断熱気密性能をクリアし、さらに薪ストーブや緑化屋根なんていう趣味っぽい要素がある家にしては、現実的な金額に収まったと思う。
全体として、値段のわりにとても「いい感じ」の家が出来てとても満足だ。
小さい工務店というと倒産なども心配…という人もいるかもしれない。
たしかに工務店というのは会社の規模のわりに比較的大きなお金を動かす業種なので、危ないと言えば危ない業種だ。
工務店の財務的な話は不明だけど、基本的には「出来ているところ」までしかお金は払わないし、住宅の代金は一般的にやるように「銀行等から工務店に直接振込」にはせず、いちど自分の口座に振り込まれたものを小出しに工務店に支払っていくようにした。
アフターサービスについては、いまのところなにかあれば緊急度に応じてすぐやってくれるし、今のところ特に不満はない。
そして家が実際に建ってから家を建てる過程を振り返り、小さい工務店で良かった…と思えた一番の大きな理由、それは私たちが家造りに積極的に参加できたことだ。
たとえば、一緒に基礎セメントの左官工事をやったこと。
たとえば、一緒に最新の建築技術を紹介する業者向けのセミナーを聞きに行ったこと。
たとえば、家の材料となる「木」を見に一緒に林産家を訪ね、山に入ったこと。
たとえば、緑化屋根の話を聞きに、一緒に秋田まで何泊かの旅行をして建築家の話を聞いたこと。
一緒に勉強していい家をつくりましょう…という姿勢と、その要所要所に建て主として参加できたことが一番の収穫だった。
最初は業者対客…という感じだったのに、最後には完全に友人のようになってしまい、一緒に釣りに行ったり、食事に行ったりと、とにかく家を建てていく過程で、話をする「量」がものすごく多く、それが結果としてよかったような気がする。
まあ人と人の間には相性があるから、他の人にとっては「別に良くも悪くもない工務店だった」というかもしれないし、逆にダメ評価をする人もいるかもしれないけれど、自分たちは彼らと相性ピッタリでとてもいい仕事をしてもらえたと思う。
家づくりのパートナー選びって、結婚相手を見つけるのと同じようなところがあって、気が合って価値観も合う相手を見つけられれば、もう「いい家」が建ったのと同然かもしれない。
しかし、たとえばこの会社はまともなホームページもないし、広告も出さないし、事務所は住宅地の自宅で看板もないし、住宅公開もせいぜい年に2~3回しかやらないので、見つけること、出会うこと自体が難しい。
やはり「家を造ろう」と思い立ってから、業者を決めるまでは、それこそ年単位で情報収集をしたほうがいいような気がする。
そんなわけで、大きいハウスメーカーにはハウスメーカーの良さがあり、また小さい工務店には小さい工務店の良さがある。
どちらが良い…という話ではなく、相手のことを良く見て、自分の話もたくさんして、そして気の合うパートナーを選ぶことがとても重要だと思う。
それにはやはり、いっぱい家を見て、自分がどんな家が好きか、どんな暮らしをしたいか、どんなことにこだわりたいか、そんなことをぼんやりでもいいので、考えるのも大切かもしれない。
まぁそんなエラそうなことを書いても、私たちの場合だって「たぶんずっとふたり暮らし」と思ってて、それっぽいつくりの家を建てたのに子どもがヒョイと出来たり、なかなか「人生の予想」ってうまくいかない、というのも事実だけれど(笑)
ra
TBさせて頂きました.
工務店の社長に惚れた.
建築家と呼びたい.
共感と羨ましいのと
あ,それだという感です.
いが
raさん、こんにちは。
コメント・トラックバックありがとうございました。
工務店もメーカーも設計事務所も結局は「ひと」ですよね。
人をみて仕事をみる。
簡単なようでいて難しいことですが、一生に一回のことですから慎重にいきたいですね。