トンネル

小樽にあるホテルの薄暗い地下駐車場。

お正月に旅行に行って、2007年の秋にもここに来たときの、深夜泣きやまないハルトのことを思い出した。


当時旅行に行った事自体はこのブログにも書いたけど、実は当時ハルトの子育ては大きな局面を迎えていた。

当時ハルトはどうも感受性が強いというか、自分の感情をうまくコントロールできないところがあって、1歳半くらいから3歳頃まで…特に夏樹が生まれたあたりからしばらくは、どこにいってなにをしても機嫌が悪く、とにかく大変な時期だった。

かんしゃくというか、泣きわめいて、感情の暴走状態になることがよくあり、ちょっとでもなにかスイッチがはいると、もうダメ。

ひたすら泣いて、わめいて、誰にも止められない。
泣きじゃくって、頭を床に打ち付けて暴れて…

かといって無視もできず、エビのように暴れる子をひたすら抱っこして気持ちが落ち着くまで対応する…といった感じ。

当時はこの状態を「地獄の使者が来ている」と夫婦で呼んでいたけど、それくらい激しい泣き方で、なにしろ手におえない。

当時は毎日がそんな感じで、新生児夏樹も生まれたばかりで、夫婦揃って精神的に疲れてしまい、そうだ旅行にでも行こう…ということで行った旅行先。それがこの小樽。

ところが旅行に来たからといってハルトの様子が変わるはずもない。
夕食のときも凄まじい形相で泣きわめいていて、店員が張りついて様子を見ていて、しまいは逆に他のお客様の迷惑になるので…と苦情を言われたほど。

やっとの思いで部屋に帰り、寝かしつけをはじめたのは午後9時。
でも今度は眠いのに寝られなくて、あるいはなにか違う理由があるのかもしれないけれど、とにかくまたスイッチオン。


泣きじゃくる2歳児、クルマに乗せれば寝るのでは?と淡い期待を持って、泣いたまま抱きかかえて地下駐車場へ。

そして暴れる子を、汗だくになりながらなんとかチャイルドシートに固定し、行き先もないのに夜の小樽をひたすら走り回る…

なんとか寝てふたたび駐車場に戻ってきて、起きるな、起きるな…と祈る気持ちで抱いて運んでいるのにエレベーターの到着を告げる「ピーン!」という音で、あるいはすれ違う人の足音で、また重いドアのドアノブをまわす音で、目を覚まして再び泣きまくる…。

深夜も0時を過ぎると、フロントと駐車場をつなぐエレベータも止まり、暗い階段を上がったり降りたり。

自分も疲れ果てて眠くて、もう本当にうんざりして、こんな修行はもう嫌だ、このままクルマで日本海にダイブしちゃおうか…そんなことも頭をかすめたりしつつ、結局午前2時過ぎまでそれを繰り返し、2時半ころにようやく寝た状態で部屋まで帰る事に成功し、家族が眠りについた…そんな思い出がある。


当時の駐車場に響き渡る泣き声、しなだれかかる身体の重さ、祈るような気持ち、やりきれない思い…そんなものを一瞬で思いだした、そんな地下駐車場。

結局、こんな状態は2008年の6月ころ、ちょうどハルトが3歳になって少ししたくらいにハルトがおしゃべりが上手になってきたころに突然終わった。

出口の見えないトンネルは終わり、もちろん今回の2009年の旅行では家族揃ってベッドで普通に寝られるし、深夜の地下駐車場に行く事もない。
あれはいったいなんだったんだろうな。


子育てをしていると、そんなトンネルに入ってしまう事があり、でもそのときはそれが終わる時期も、それが終わる事すらわからなかったりする。

でもやっぱり子どもは成長するし、終わってしまえば、ああそんなこともあったね…なんて程度の子育ての出来事のひとつ。

「なつきー、ほら赤いクルマだよー」なんて言いながら、楽しそうにしているハルトを見ながら、やっぱり子どもも成長するんだなー、と当たり前のことをしみじみと感じた、そんな地下駐車場。